フルート四重奏曲

2022.11.28

 純粋な器楽曲を追求するならピアノソナタと弦楽四重奏が外せないというのは暗黙の了解のようになっている。ベートーヴェンがその好例だが、ピアノソナタ、弦楽四重奏と書き進めていき、最終的に交響曲を手掛けるというのが自然な流れだという事を否定する気は毛頭無い。

 個人的にピアノソナタを書く気はまだ起こらない (起こりそうな気配は近頃感じている)。
 弦楽四重奏曲も過去のある一時期に書こうとした事はあったものの、色々あって一旦その熱意は失われた。しかし、ヴァイオリン弾きの粟津 惇さんとの出逢い以降、沸々とその意欲が再燃してきているのを感じる。

 今回のフルート四重奏曲は現在、未完成の状態であるという事は断っておく。

 フルート四重奏の回が決まってすぐくらいの時。「早起きをして作曲をするという事を習慣に出来れば何と素敵なんだろう」と思い立ち、慣れない早起きをした事が数日あった。
 その一日目にピアノに向かった際に思い付いたのが第三楽章の主題で、その日出掛けるまでの間に楽章の半分以上を書いた事は記憶に新しい。

 二日目の朝は起きる気がしなかったのだが、ふとフルート四重奏曲に意識が向いてしまった時に (起きて書かなきゃなぁ……と思った時に) 主題の冒頭三音を思い付いた。これくらいなら多少二度寝をしても覚えているだろうと思おうとしたが、せっかくだと思い立ち、布団から辛うじて抜け出して作曲を始めた。

 割と順調な滑り出しを見せた作曲だったが、いつまで経っても前後の楽章に見合う中間楽章が出てこない。余裕を持って書き始めたが、色々と他の仕事に着手せざるを得なくなる。後手に回り始めた所で、思い付かないなら取り敢えず第二楽章は諦めて、今回は第一楽章だけの披露にしようと思い立った。
 それなのに、第一楽章が仕上がったのが遅かったにも関わらず、その勢いで第三楽章も仕上げてしまったのだ。そこで振り返ってみても、やはり両端楽章に見合うような第二楽章が思い付かない。かくして、現状で未完なのだ。
 (奏者の皆々様方にも多大なるご迷惑をお掛けした事を猛省しております。来年の目標は『書けてから企画する』に設定しました。)

 

 ここからがいわゆるプログラムノートにあたるので、語調も切り替えていきましょう。

 ヴァイオリンの粟津 惇さんの音を想起すると、何となく高貴な印象を受ける事が多いです。
「高貴」と言えばエルガー。彼ほど「ロイヤリティー」という単語が合う作曲家はそうそう居ないでしょう。

 クラシックを聴く人で、エルガーの作曲した「威風堂々」を知らない方は珍しいと思います。しかしそれが全部で五曲からなる行進曲集である事をご存知の方はどれくらい居るでしょうか。(こんなふうに偉そうに書きながら、他の「二番、三番、五番」についてはまだ主題を覚える程触れてはいません。悪しからず。)
 恐らく最も一般的なのが「第一番ニ長調」でしょう。個人的にはこちらよりも「第四番ト長調」の方が好きです。何より高貴さという面では明らかにこちらだと思います。トリオに於けるフルートの使い方には度肝を抜かれたものです。

 第三楽章はそんな「威風堂々第四番」の要素を少々拝借する形と相成りました。やはり書くからには気に入って頂きたいという下心のようなものもございますし、星野源さんも御用達の五音音階をベースに書いた第三楽章に、日本人としては同じ島国である英国出身・エルガーのモチーフはぶつかる事なく、上手い具合にまとまってくれたと思っております。

 第一楽章は、フルート四重奏という決して大きいとは言えない編成に対して、なるべくスケールの大きな音楽を書こうとしました。同時期に手掛けたという理由だけでは片付けられませんが、10/31のハロウィンコンサートで演奏した私のフルートソナタと、兄弟のような位置付けの作品となっております。

 合わせに立ち会わせて頂いた際に、「自分は恵まれている」と改めて感じる程に愛情を持ってこの曲に接してくださった皆々様に心からの敬意を込めて。